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2016年 9月

適正

2016/09/15

人にはそれぞれ「適正」というものがあります。

趣味や好み、友だちづきあいなども適正があって、自分の個性にあったものを自分で選びますよね。

おとなになって就く仕事にも「適正」があります。

よく「好きなことを仕事にしてはいけない」と言いますが、これも人によると思います。

好きなことだからこそ続く人と、好きなことはストレス解消のために仕事と分ける人とがいるわけです。

最近は、中学校や高校でも適性検査があって、子どもが将来の見通しを持つために、自分の適性を知る機会があります。

ずいぶん前の刊行ですが、村上龍さんの「13歳からのハローワーク」は、世の中のいろんな職業が掲載されていて、その職業に向く人なども記載がありましたね。

さて、自分の適性というものを知るためには、まず、自分がどういうことが苦手で、どういうことが好きで、どういうことが得意か、どういうことに興味があるか、どういう性格的傾向があるか、などを知らなければなりません。

要するに、「己を知る」ということです。

意外と人って、自分のことを知らない人が多いですよね。本人は客観的に自分見ることができないので、当然と言えば当然ですね。

己を知るためには、自分の意志が必要です。自分から関わり、実際に経験し、失敗と成功を繰り返して、自分には何があってるかを知ります。そうやって初めて、自分のことを知ることができるわけですが、これがもし、すべてを用意されている環境で、自ら何かを選ぶこともなく、与えられたものや環境だけで生きていった場合、どうなるのでしょうか?

自ら選んだり、考えたり、葛藤したりしなくていいわけですから、失敗はないかもしれません。しかし、自分の不得手とするものは知らないままです。

そうすると、自分の適性が何かはわからないままです。

前回のブログまでの連続のストーリーの中で出てきたAさんは、就職した企業に合わなかったというよりは、サラリーマンという職種に適性がなかったことが考えられます。

Aさんの個性として、

・ルールはきっちり守る

・対人スキルが不得手

・マニュアルが好き

といったことが挙げられます。

加えて、

・真面目である

ことも利点ですね。

そうすると、きっとAさんには、もっと個人でどんどん流れに沿ってやれるような仕事の方が向いていたのではないでしょうか?

例えば、CGデザイナーやプログラマー、デザイナーやエンジニア、研究者なんかも適性が高そうです。

Aさんは、ストーリー上では、自閉症スペクトラムと診断されましたが、発達障害だからといって道が閉ざされるわけではなく、自分の適性に合った仕事と生き方ができれば、思わぬ成功を収めることができるのです。

不幸なことに、話の中ではAさんは、2次的な疾患を患ってしまい苦しむのですが、もっと早くから、Aさんの特性に気づき、Aさんに合った生き方を提案してくれるような人が身近にいれば、不幸な思いは感じずに済んだかもしれませんね。

保護者にとって、乳幼児期は、まだまだ大人になるまで先のことのように感じられるかもしれませんが、生まれたときからその子の人生は始まっています。

特に、この時期に獲得した人的スキル(コミュニケーションスキルとも言いますね)や愛着関係、自発性や主体性、自律性などは、これから先のその子の人生の基礎になります。

後々でも身に付けることは不可能ではないのですが、乳幼児期に獲得するのに比べて何倍もの時間と労力が必要になってきます。でも、愛着(他者との信頼関係といった方がいいかもです)だけは厳しいかも・・・。

何はともあれ、子どもにとって己を知ることは、今後の人生の指標になっていくわけですが、それにはまず、個々の個性や特性を受容する環境がとても重要ですね。

 

 

おとなの発達障害⑤

2016/09/10

Aさんという例を挙げて、架空のお話を紹介したわけですが、これには理由があります。

最近になって、大人になって発達障害と診断される人が増加傾向にあるからです。

ずっと見過ごされてきて、おとなになって何らかの不具合(社会に不適応だとか他者との関係性がうまく持てないとか)が出て、はじめて本人も気づくケースが増えています。

大人になって初めて診断された場合、もともと抱える課題のみの診断ですと、まだ対処のしようもありますし、本人にとっても生きてきた中で身に付けた対処法もありますから、ちょっとの工夫でぐんと楽になることが多いのですが、2次障害などを併発してしまった場合が、かなり本人にとって大変になってしまいます。

完治までの道のりがどうしても長くなってしまいますので。

軽度のうつ病や、適応障害、パニック障害などは、適切な休息と規則正しい生活や食事などでずいぶん軽減し、完治までの時間も短くて済みますが、人格障害や統合失調症などが2次障害として出た場合、本人も含め、周囲の家族も大変な苦労をすることになります。

これらに関しては、私は乳幼児期が専門ですので、おとなになってからの対応法は残念ながら知識としてしか持っていません。ですので、「こうするべきだ」とお伝えすることはできませんが、抱える苦労は並大抵ではないとだけ言えます。

 

誤解のないようにかいておきますが、上記で挙げた疾病がすべて発達障害の2次障害ではありません。発達障害でなくても、大きなストレスなどがあれば、上記の疾病を発症することは誰にでも起こり得ることです。

安直にイコールにしないようにお願いしますね。

さて、少し思い話になってしまったので、ここでもう少し明るい話題を。

おとなになって発達障害と診断される人が増加傾向だと書きましたが、社会に出る前の大学生時代に診断を受ける人も増えています。

そこで、主に国立の大学では、学内に相談できる部署が出来ています。

学生生活を送る中で、不都合や不具合を感じる学生のために、気軽に相談ができたり、カウンセリングが受けたりできる場所を、国立大学は必ず置くようになっているとのことです。

その利用者はかなり多いようで、私立大学の学生に比べると国立大学の学生の方が利用者数は多いとのことです。

どちらにしても、数の問題ではなく、そういった場があるかないか、の方が問題ですから、大学内にそういった場があって利用できることは、学生にとってもプラスになることですね。

社会に出て初めて気づくより、学生の内に気づいて対策を学べるのならば、当事者にとってこれほど助かることはありません。

社会に出ての休暇より、学生の間の休暇の方がよっぽど取りやすいですしね。

これで、今回の一連のエピソードは終わりですが、ちょっと誤解されそうなので記載しておきますね。

今回取り上げた架空の人物Aさんの架空のお話ですが、自閉症スペクトラムの方がAさんと同じ症状であるとは限りません。

逆に言えば、Aさんの症状だけが、自閉症スペクトラムの特徴ではない、とも言えます。

個々によって特性は様々ですし、まったく同じ特性を持つ人もいません。

また、自閉症スペクトラムと診断されたからといって、Aさんのように必ず鬱病だとか適応障害を発症するわけでもありません。あくまでもわかりやすくするために、オーバーな表現をしている箇所もありますので悪しからず。

最近は、様々な情報が手に入りやすくなった代わりに、一部分だけを切り取ってそれだけを取り上げようとする方が増えていますので、それを避けるためにも念のため記載しておきます。

おとなの発達障害④

2016/09/08

さてさて。

Aさんという架空の人物の架空のエピソードを3回に渡って書いてきましたが、いかがでしたか?

すべて架空の話ではありますが、エピソードの部分部分は実際に世の中で事例としてあったケースを話を変えて使っています。

Aさんが診断された「鬱病」は、ドクターによっては、「適応障害」などとされることもあります。

そこはおいておいて、今回のポイントとも言うべきところは、Aさんが併せて診断された「自閉症スペクトラム」にあります。

話の中にいくつもの特徴的なAさんの傾向があります。

・マニュアル通りでないと気が済まない

・自分のことは棚に上げて、人へはしっかり注意する

・柔軟性に乏しい、臨機応変な行動が難しい

・年齢が上か下かなど、分かりやすい指標が判断基準になり、その判断基準がすべてとなる

・相手の都合は考えず、自分の思い描いたルールや予定にこだわる 

などです。

小さいころからのAさんの話の中にもいくつか特性が見られます。

・おとなのいうことをよく聞く子だった(マニュアルや指示は得意)

・リーダーシップがあった(他者からの評価は事実とは違っても、自分ではそうだと思いこんでいる)

・他者に逆切れされることが多かった(他者の気持ちに共感したり、理解したりに乏しいため、ルールを押し付けるから文句を言われてしまう)

・マニュアルや指示があると、そのことはできるが、それらがないと対応ができない

・勉強はでき、大学進学までしているので、知的には課題がない

などです。

注意しないといけないところがもう1点あって、例えば、人を見下すようなAさんの態度や考えが、このエピソードの中にいくつかありますが、これらは、そもそもの特性というより、Aさんがそれまで生きていた中で、思い通りにならないことが多かったため、自分の自尊心を守ろうと身に付けた防衛反応のひとつである、という点です。

Aさんにとっては、悪気はもちろんなく、相手を傷つけようという意図もありません。

基本的に真面目であり、融通がきかないだけなんですが、他者理解に欠けるために、他者とうまくいきづらいわけです。

小さいころは、周りにいる友だちは、気が弱ければAさんには逆らいませんし、優しい子だと受け入れてくれます。

ただ、年齢が上がると共に、それぞれが自分の人生でいっぱいいっぱいになり、余裕がなくなってきますし、それぞれがおとなになっていくわけですから、いつまでも子どものままの関係性ではなくなっていくわけです。

Aさんがせっかく1週間の休暇の間に友だちに会おうと思っても、そういった理由から、友だちの方は相手をしてくれないのです。

lineを既読スルーした友だちは、きっと、返答に困っている内に立て続けにAさんから連絡があったことで、相変わらず自分のことばかりだな、と呆れてしまったのかもしれません。

学生時代までと社会に出てからとでは、その間に結構大きな見えない壁があります。

特に今回の例のAさんのような特性を持つ自閉症スペクトラムの場合、学生時代は特に問題なく、気づかれないまま放置されてしまったケースで、社会に出て、途端に他者と共同で何かをやっていく仕事に就いて初めて、Aさんが抱える課題に気づいた、となることが往々にしてあります。

しかも、鬱だとか適応障害だとかを発症してしまってますから、完治するのには時間がかかります。

そこで、今回の一連の話の冒頭部分の、早期発見に話が戻るわけです。

もちろん現実世界では、時間を巻き戻すことはできませんから、仮の話になりますが、仮にAさんが、乳幼児期にその特性を誰かに知ってもらっていたら、どうなったでしょう?

きっと、「そういう特性を持つ人なんだ」ということで、理解してくれる人が一人か二人はいたはずです。

それに、本人も、自分にはそういうところがあるから、気づいたら注意してね、とも言えたはずです。

マニュアル通りにしか動けないAさんに、世の中はマニュアル通りにはいかないことを、もっと早くから伝えてあげることも可能だったはず。

事前に情報があれば、Aさんなりの対応は可能ですからね。

もちろん、おとなになって初めて挫折を味わったからといって、人生が終了するわけではないのですが、それでも中には、就職に失敗したからと自殺してしまう人だっているわけですし、たったひとつの会社で不適応を起こしてしまったことで、そのまま引きこもってしまう人だっています。

今回のAさんの場合は、小中学校などでいじめには合っていませんから、ラッキーな部類ですが、いじめにあってしまって早々に不登校、というケースもなかにはあるわけです。

不登校や引きこもりがイコール人生の終わりとは思いませんが、避けることができるのならば、避けたほうがいいですよね。

自殺はできることなら、ではなく、絶対に避けたいことです。

そのために、できるだけそういったことを避けるために、早期発見が重要になってくるわけですが、この早期発見は、「診断名をつける」ことではありません。

結構みなさん、関係機関の人たちも勘違いしがちなんですがね。

早期発見は、「特性を知って、特性に応じた配慮のため」に行うものです。

ですから、無理強いするものでもないですし、必ずしも診断名が必要になるものでもありません。

たいてい、親というものは、自分の子どもがどんな性格をしているか、って結構正確に理解しているものですよね。

ただし、親にも発達の課題がある場合は、なかなか正確な子どもの発達理解は難しさがあります。

その辺が、最近の研究などから少しずつ分かってきていますが、それはまた別の機会に書きたいと思います。

おとなの発達障害③

2016/09/04

1週間の休暇をもらったAさんは、この機会に学生時代の友だちに会うために、連絡を取ってみることにしました。

今はLINEなどのメッセージアプリがあるため、わざわざ電話をしなくても、簡単に連絡が取れます。

連絡が取れた友だちと、どういうことをして遊ぼうか、と自分なりにプランを練り、とりあえず飲みにいくことにしました。

久しぶりに会えると思うとわくわくします。

まずは最近まで身近だった大学時代の友だちです。

lineで連絡を取ります。しかし、既読がなかなかつきません。

翌日になってようやく既読がついたかと思うと、「仕事が立て込んでいる。平日に休み?いいよな~」との返答。飲みに誘うものの、「悪いけど、仕事が忙しくてそれどころじゃない。週末は彼女とも会わないとだし」と断られてしまいます。

Aさんは、それほど友だちが多くありません。

中学校・高校・大学と、せいぜい数名程度です。

中学校時代の友だちは、連絡を取ろうとしましたが、ラインのアドレスを知りません。携帯番号はわかるので、かけてみると、現在使われていないとのアナウンス。

仕方がないので、高校時代の友だちに連絡を取ってみました。

こちらもなかなか既読はつきません。

それはそうですよね。

平日の昼間はたいてい皆仕事です。

ようやく翌日の夜になって既読がつきましたが、返答はありません。

他の友だちはみんな会えないので、最後の綱は高校時代のこの友だちだけです。

Aさんは、なんとか自分の練ったプランを実行したいと思い、返答がないまま連投します。

「飲みにいこう。いつなら行ける?こっちは今日でも明日でも空いている」

ところが、これにも既読がなかなかつきません。

そしてまた翌日になって、ようやく既読がついたものの、返答はありません。プランの実行に拘っているAさんは、また返答なしで連投します。

「いつ空いてる?明日までなら行けるから」

とうとう、既読はつくものの、友だちからの返答はありませんでした。

結局、友だちとは誰とも会えないまま、次の受診日になりました。

診察室で、お医者さんに聞かれます。

「ゆっくりリフレッシュできましたか?友だちとは楽しめましたか?」

Aさんは、下を向いて、誰とも会えなかったことを伝えました。

お医者さんは、残念でしたね、とAさんに共感し、今日は、ちょっと遡って、小さいころからのAさんのことを教えてくださいね、と言いました。

Aさんは、覚えている限り、小さいころからの話をしました。

小さいころは手がかからないと親から言われてきたこと。

小学校・中学校ともに、学級委員などを率先してやっていたこと。

先生たちからの指示はきちんと守っていたこと。

ルールを守らない他児には諭してあげていたこと。

成績はそこそこ良好で、勉強は答えがあるからそれなりに簡単だったこと。

なぜか友だちから文句を言われることが多かったこと。

大学時代はそれほど多くの友だちができなかったこと。

小さいころから、ルールを守らない人がいると我慢できずに注意していたこと。

せっかく教えてあげているのに、逆切れされることが多かったこと。

自分は間違っていないのに、聞いてくれないと思うことが多かったこと。

でも、きっと、周りが頭が悪かっただけで、理解できなかったんだろうと今は思っていること。

今回もお医者さんは、Aさんの話をにこやかに聞いてくれています。

間でいくつかお医者さんから質問がありました。

Aさんはそれにもちゃんと答えました。

そして、今回の診療が終わり、翌日からまた出勤です。

お医者さんからは、心配なこととかあればいつでも来てくださいね、といわれています。

Aさんは、わかりました、と言いながらも、困ることがあるとも思っていませんでした。

だって自分は間違ったことはしていないのだから。

さて。

翌日、1週間ぶりの出勤です。

Aさんは、久しぶりにスーツに着替え、自宅を出ました。

いつも使っている通勤電車に乗り、会社の最寄り駅で下車します。

いつものように改札を抜けようとすると、足が動きません。

改札の前数メートルまで行けるのですが、そこから先に進めないのです。

慌てたAさんは、リーダーに電話を入れます。

足が動かなくて改札を通れません。

リーダーは、1週間何の音さたもなかったAさんからの久々の電話に、不審な声を出しながらも、部長に相談するから折り返しの電話を待つように、とAさんに伝えました。

ほどなく、Aさんに部長から電話があり、今日はそのまま帰宅するように、と指示が出ました。

Aさんは、指示通り、帰宅することにしました。

翌日も同じように、スーツに着替え、会社の最寄り駅で下車するものの、改札が通れません。

その翌日も同じです。

その翌日は、スーツに袖を通そうとすると、途端に吐き気に見舞われました。

結局、部長からの指示で、しばらく休暇を取ることになり、また病院受診することになりました。

真面目なAさんは、出勤できないことへの後ろめたさや自己嫌悪でいっぱいです。

毎日、朝起きたら出勤し、仕事をして帰宅する、という当たり前の日常が送れないことへのいらだちも感じます。

部長からの指示を受け、病院へ予約の電話を入れ、翌日、受診することなりました。

そこで、Aさんは、お医者さんから「鬱病」との診断を受けます。

そして、併せて、「自閉症スペクトラム」の診断も受けたのです。

 

※またまた続きます。

 

おとなの発達障害②

2016/09/02

さて

Aさんのお話の続きです。

部署内でBさんを怒鳴りつけてしまったAさん。

あまりの出来事に、部署内は一瞬、時が止まったかのような静寂に包まれます。

すかさず、チームリーダーが声をかけにきます。

Aさんは事情を説明して、Bさんが反抗的だったから、と言い訳をしました。

Bさんは、先輩に対して失礼な物言いだったかも、ということで頭を下げました。

リーダーは、Bさんに仕事に戻るように伝え、Aさんは、リーダーと別室で話をすることになりました。

Aさんは、リーダーに事の顛末を一部始終話します。マニュアルを守らないBさんが悪い!とも訴えます。

しかし、リーダーからは、「Aさんが真面目なのはわかるが、仕事はマニュアル通りにはいかないものだよ」とたしなめられてしまいます。

リーダーからもBさんと同じことを言われ、混乱するAさん。

その後のリーダーとの話は、Aさんはもう上の空です。

そういえば、研修期間のグループ討議の時も、周りの参加者は自分に反対意見ばかりだったな。

そういえば、これまでも、先輩たちからは注意ばかりで、柔軟性を持って、だとか、臨機応変に、だとか言われるばかりだったな。

それに加え、今回は、リーダーからも同じこと言われたな。

自分は間違ってないのに!

そうか。

うちの部署はみんな頭が悪いんだ!自分のいうことが理解できないんだな!

これは、うちの部署の業績を上げるためにも、自分がもっと率先して、みんなのレベルを上げてやらないとな!

Aさんは、自分を省みるどころか、他の人が悪いと思いこんでいます。

そんな状況ですから、翌日からは、Aさんは、これまで以上に張り切って仕事に臨み始めました。

チーム内だけでなく、部署内の他のチームにまで口を出し、あれこれと助言します。

とうとう、Aさんのチームリーダーのところに、他のチームからの苦情が寄せられるようになりました。

そりゃそうですよね。(笑)

Aさんのチームのリーダーは、またもやAさんと別室で話します。

Aさんは、自分が正しいのに、周りが無能だと言い張ります。

困ったリーダーは、課長と部長に相談しました。

課長と部長はリーダーの話を一通り聞き、Aさんの部署内での動きも、別チームから報告があっていたので、話はスムーズでした。

課長は顔をしかめています。Aさんの真面目さは、部署内では誰もが知っています。Aさんにとっては、仕事をきっちりやっているだけですから、Aさんを無碍に責めるわけにもいきません。

それはリーダーも同じ意見です。

そこで部長が一言。

「Aさんはちょっと何か課題があるのかもしれないな」

運よく、部長の息子さんがお医者さんで、発達障害を専門としているとのこと。

息子さんと同居している部長は、日ごろから、発達障害に関しての知識を今後の仕事に役立つかもと思い、息子さんから教えてもらっていたのです。

一度、Aさんを部長の息子さんに診せてみようとなりました。

ただ、どうやって受診を勧めていくか。そこが問題です。

Aさんは、自分が悪いとは少しも思っていませんから。

幸い、Aさんの勤める企業は、大手まではいかなくとも、そこそこしっかりした会社で、福利厚生もしっかりしています。

様々な病気などでの休職も認められているので、社員の権利は十分守られます。

もし、Aさんに休職が必要な時は、その制度が使えますし、病院などの受診に対しても肯定的な会社です。

ここは直属の上司のリーダーより、もっと立場が上の課長や部長が命令という形をとる方法がベストではないか、ということで、部長がAさんに指示することになりました。

数日たって、部長はAさんに、部長の息子さんが勤める病院で受診するように指示を出しました。

Aさんは、上司命令ですから、逆らえません。しぶしぶですが、受診することにしました。

次の週になって、Aさんは、予約通り、部長の息子さんが勤める病院へ行きました。

Aさんは、受診する科が精神科であることにも不満でした。さも自分がおかしい者扱いされている気がするからです。

でも、待合室を観察してみると、結構人が多くいます。年齢や性別も様々で、若い女性もいます。Aさんから見て、いわゆる頭のおかしい人、という様なこれまでAさんが抱いていたイメージとは違う人ばかりです。

精神科といわれなければ、内科などの待合室とまったく様子は変わりません。

Aさんは、少し安心しました。

さて、いよいよAさんの名前が呼ばれました。

診察室に入ります。お医者さんは、部長の息子さんです。

年はAさんよりも一回り程上だと聞いています。

年上ということもあって、Aさんは話しやすそうだな、と感じました。

お医者さんは、柔らかい笑顔で、挨拶しました。

とても落ち着いた声でした。Aさんはそこでもまたひとつ、安心しました。

Aさんは、お医者さんから尋ねられたことにちゃんと答えていきます。

1年目は失敗ばかりだったが、マニュアル通りにやっているだけなのに失敗するから、マニュアルに不備があるわけで、自分は真面目にやっていること。

社内の他の人達が、マニュアル通りに動かないことが腹立たしいこと。

マニュアルがあるのに、柔軟性を持て、とか、臨機応変に、とかお門違いの指導ばかりされること。

自分は先輩なのに、後輩から口答えされて頭にきたこと。

先輩たちはみんな後輩の味方で、自分の味方はいないこと。

自分は間違っていないのに、注意ばかりされること。

自分の言うことが理解してもらえないのは、周りが無能だから。だから、自分がもっと周りを引っ張っていかないといけないということ。

お医者さんは、カルテにメモをしながら、時に相槌を打ちながら、Aさんの言い分をゆっくり時間かけて聞いてくれました。

一通り話したことで、Aさんは少しスッキリしました。

お医者さんも、笑顔で、それは良かったですね、と言ってくれました。

そして、

「もっとAさんのこと知りたいので、来週も来てもらえますか?」

との申し出がありました。

Aさんは、ちゃんと話を聞いてくれるお医者さんにすっかり好意を抱いていますので、もちろん、快諾しました。

次週の診察の予約を入れ、第1回目の診察はこれで終えました。

お医者さんからは、仕事は無理のない範囲で行く分にはかまわないけど、疲れているようだからお休みできるなら休んだら?とのことだったので、そのままリーダーに伝え、次の週の受診までお休みをもらうことにしました。

思わぬ1週間の休みができたので、Aさんは、久しぶりに学生時代の友だちとあってみようと思い立ちました。お医者さんにもすすめられたからです。

そこで、中学時代、高校時代、大学時代の友だちに連絡を取ってみることにしました。

 

(またまた続く)

おとなの発達障害①

2016/09/01

近年は、「発達障害」という文言があちこちで見聞きされるようになってきました。

発達障害には多数の種類があり、分類はWHOやアメリカ精神医学会などでも定められています。日本においても法律上の分類があります。

発達障害は、全般にわたって、早期発見と早期療育が基本とされています。

早期療育に関してはまた別の機会に触れるとして、今回は早期発見に関してのみ少しだけお伝えします。

早期発見というと、早々に障害名をつけてしまう、と誤解されやすいのですが、本来の目的は、早期にその子どもの特性を知って、特性を生かした環境づくりをすることが目的です。

そのため、乳幼児の健診や保育所などの子ども集団の場で、定期的に子どもの発達を捉え、個々の特性を知ることが一番最初の手だてになります。

なぜ、早期発見が必要なのででしょうか?

これは特性を持つ子どもがおとなになったときに、その理由が判明します。

例えば、Aさんという人がいたとします。(Aさんは実在の人物ではありません。あくまでも一例としてのエピソードですので、誤解のない様・・・)

Aさんは、特に手がかかるわけでもなく、生まれてから保育所や幼稚園などの子ども集団を経て、小学校・中学校へと進学し、その後、高校・大学へと進みました。小学校・中学校では、クラス委員や生徒会委員などを任されることも何度かありました。

一緒に遊んだり、どこかに出かけたりする友達もそれなりにいました。

友達はみんな割とおとなし目で、攻撃的なタイプではなく、優しい子ばかりでした。

これまで特に大きなトラブルもなく、目立つこともなく、いわゆる先生と呼ばれる人や親の言うことに逆らうこともなく、言われたことはちゃんとでき、勉強も特に問題なく大学進学までできています。

 

そして、就職活動の時期になり、世の中は人手不足もあって、大手企業の内定はもらえませんでしたが、滑り止め程度で考えていた企業の内定はもらうことができました。

ここまで順調ですね。

さて、いざ社会に出ることになったAさん。

就職すると、研修期間があり、研修期間は様々な研修を受けます。

社会における研修は、これまでの先生対生徒、という一方的に知識を吸収するだけの座学だけではありません。もちろん、これまでの定期考査のような流れでもありません。

時には人前で自分の考えを話したり、時には他の参加者とのグループ討議があったり、チームでひとつのことに取り組んで解決方法を模索したり・・・。

Aさんはそこで、違和感を覚えます。他の参加者とのグループ討議で、自分の意見を言った時、他の参加者から反対意見ばかりを出されたのです。

「自分は間違っていないのにな」

「きっと他の参加者が無能なんだな」

Aさんは、新人ばかりだから仕方ない、と割り切ることにしました。

さてさて。

研修期間も終わり、今後は実践となります。

正式な「勤務」が始まるわけです。

Aさんは、とある部署に配属となりました。その部署には、もちろん、部長がいて、課長がいて、その下に5人一組のチームが4つ5つあります。そのうちの一つのチームに配属となりました。

そのチームでは、チーム員がそれぞれ意見を出しあって、様々な生じたトラブルを解決するという役割を持つチームでした。

配属されてすぐ、あるトラブルが発生します。

お客様からのクレームです。

Aさんのチームは、受けたクレームに適切に対応して、処理をするという「仕事」をこなさないといけません。

チーム員は、役割分担で仕事を進めていきます。

お客様から話を聞いて事実確認をする役割、クレームに対して会社としてどのような対応ができるか調査する役割、上司に報告する役割、チーム内の連絡を相互にする役割。チームリーダーはそれらをまとめて報告書の作成をします。

さあ、それぞれの役割をそれぞれが即時に開始します。

Aさんは、中でも一番簡単な役割をすることになりました。新人なので、部署のみんなからの好意です。

Aさんに充てられた役割は、お客様から話を聞く役割です。

Aさんは、研修期間に対応方法の研修を受けていますから、これなら大丈夫、と安心しました。研修期間にマニュアルももらっています。フローチャート方式のマニュアルですから、矢印に沿って話を進めればいいな、と確認して、いざお客様へ電話を入れました。

失敗したときは、即座に先輩が電話を代わってくれることになっています。

チームのフォローアップ体制も整っていて、電話口の横ではリーダーが待機してくれています。

Aさんはマニュアルに沿って、電話で話し始めました。

挨拶もそこそこにいよいよ本題に入ります。

今回のクレームに関しての聞き取りです。

ところが、聞き取り開始後数分で、Aさんは応答に困って固まってしまいました。

突然、しどろもどろになってしまったので、横で待機していたリーダーから電話を代わるように、とのメモを渡され、慌ててリーダーに電話を代わりました。

リーダーのフォローのお蔭で、事なきを得、「最初はこんなもんだよ」と優しい言葉をかけてもらい、初めての役割はなんとか終えることができました。

しかし、その後、何度やっても同じもしくは似た状況になってしまいます。

チームの先輩たちからは、その都度、指導してもらっています。

それなのに、なかなかうまくいきません。

Aさんは、その都度、リーダーからフォローしてもらいました。

Aさんは、段々自信をなくしていきました。でも、自分はマニュアル通りにやっているわけだから、間違っていない!との思いもあります。

先輩たちはいろいろ言うけど、その通りにやっているのに!

悶々とした思いを抱えて、Aさんは毎日仕事に向かいました。

そうこうする内に1年が過ぎ、Aさんは2年目に突入します。1年目の新人さんが入ってきます。Aさんもまだ2年目で、新人の枠ではありますが、1年目に比べると先輩になるわけですから、後輩が入ってくることで、少し気分が良くなりました。

これからは、後輩の手本となるように頑張ろう、とAさんなりに新たな目標を持ちました。

 

さて、Aさんの部署には新人が数名入ってきました。Aさんのチームには、先輩と入れ替わりで、Bさんが入ってきました。

Bさんは新人なので、昨年までAさんがやっていた役割を担うことになりました。

Aさんは、自分も経験したことだから、Bさんにいろいろ教えてあげようと張り切りました。

ところが、Bさんは、横で待機しているリーダーの手を煩わせることなく、難なく仕事をこなしていきます。

Aさんは面白くありません。何が面白くないかといえば、自分が失敗ばかりだったのに比べて、Bさんはミスがほとんどなく仕事をこなしていることです。それに加えて、Aさんが一番面白くないのは、Bさんがマニュアル通りに事を進めないことです。

Aさんは、それが気になって気になって仕方ありません。

そこで、AさんはBさんに注意します。マニュアルがあるんだから、マニュアル通りにやらないとダメじゃないか!と。

謝罪があるかと思ったAさんは、Bさんからこう言われてしまいます。

「マニュアルはあくまでもマニュアルであって、お客様の状況に応じて臨機応変に対応しないとまずいんじゃないんですか?」

Aさんは、年下から反論されたこと、自分の考えが通らなかったこと、自分と違う意見が言われたことで、腹を立ててしまいます。

怒りが収まらないAさんは、とうとう部署内で大きな声でBさんを怒鳴りつけてしまいました。

 

さてさて。

ここで一旦休止して、続きはまた次回に!

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